aotuki_hibi’s blog

なんちゃって霊能力者、自称・安倍晴明の生まれ変わりです。

 なぜ安倍晴明なのかというと、左手の中央に晴明紋(五芒星)がうっすら出ているからです。

 実は、漫画の小ネタとして使ってもらえたらいいなと思って始めました。自由に使ってください。

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ショートムービー『津波』

カクヨムに投稿したお話です。

 

津波伝承館ではとんでもないショートムービーを流しています。


津波に飲み込まれる感覚とは、どんなものなのか――
想像するしかない私なりに、少しでも近づこうと試みました。
一応、ホラーです。

 

・子どもの頃に海で大きな波をかぶったとき
バンジージャンプをしたとき
・車が事故で宙を舞ったとき
・冷蔵庫の奥から、1年以上前に封を開けた塩辛を見つけたとき

 

……そんな自分の体験を重ね合わせて、物語にしました。

約2000文字

 

 

カクヨムで自主企画 「2025年7月、大津波は起きなかった。」(カクヨムサイトへ移動します。) をやっているのでよかったら見に来てください。

 

ショートムービー『津波

 

 街を歩くと、いろんなものが勝手に憑いてくる。

 良いものもあるけれど、だいたいは悪いもの。

 一週間、憑いているものもいれば、すぐに離れていく軽いやつもいる。

 私はそれに慣れてしまっている。慣れてはいるけれど、やっぱり、うんざりする。

 

 2025年7月5日。

 

 よりによって、こんな日に。

 よせばいいのに、家族で宮城県石巻市に来ている。

 目的は『み〇ぎ東日本大震災津波伝承館』だ。

 言い出したのは父だった。

「せっかくだから見ておこう」って。

 私は反対しなかったけど、本音を言えば、来たくなかった。

 たぶん、何かいるってわかってたから。

 

 シアターに入り、席に座る。

 照明がゆっくりと落ちていく。

 

 その瞬間、憑く。

 

 突然だ。いつもそう。前触れも、気配もない。

 ただ、憑いてくる。

 

 身体が重くなる。

 視界の端が暗くなって、音が遠のいていく。

 

 まるで、魂の半分が現実から引き離されて、どこか別の場所へ引っ張られていくような感覚だ。

 

 けれど、今回は――更にその先へ引っ張られていく。

 

 

 周囲は明るく、感覚は異常なほど鮮明だ。

 私は必死で逃げている。

 黒い濁流から。

 

津波だ。』

 

 逃げているはずなのに、濁流はあっという間に私を追い越していく。

 

 私は足を取られ、流される。

 

 濁流がぶつかってくる。

 それはもう水じゃない。大きくて、重たい、暴力的な無数の足だ。

 あらゆる隙間から、私に襲いかかってくる。

 私は、その足の間でもみくちゃにされる子供だ。

 

 私はぐるぐると回され、上下すらわからなくなる。

 前も、後ろも、右も左もない。

 ただ泥水と、瓦礫と、絶望しかない。

 

 私は目を閉じ、口をふさごうとする。

 

 だが遅い。

 

 鼻から泥水が入ってくる。

 ヘドロの臭いに、ほんのわずかな潮の匂いが混じっている。

 

「うぇっ」

 たまらず口を開けてしまう。

 

 すかさず、侵入してくる泥水。

 腐った塩辛のような味が、喉を這いまわる。

 

 ヘドロが、肺へ、胃へ、押し込まれてくる。

 咳き込みたいのに、咳が出ない。

 声も出ない。

 

 ただ、水と恐怖に押し流される。

 

「ひぃっ」

 たくさんの重い瓦礫、鋭い瓦礫が体にぶつかる。

 

 痛いはずなのに、よくわからない。

 もしかしたら、"感じさせられていない"のかもしれない。

 そう思う自分が、どこかにいる。

 

 このままじゃ……

 ……もう、だめだ。

 そう思った瞬間、頭の中が、不意に澄んでいく。

 

 視界は中央だけでなく前方のすべてがはっきり認識できる。

 音が消えて、時間の流れが異常に遅くなる。

 

 不思議と冷静だ。

 

 もしこれが「走馬灯」というものなら、私は今それを見ているのかもしれない。

 

――津波が止まる。

 

 私はむせ返りながら、浮いている木材に手を伸ばす。

 

 でも身体が言うことをきかない。

 

 意識はある。

 手も動く。

 けれど、足が動かない。

 膝が笑って、力がはいらない。

 

 恐怖にに憑りつかれた私の身体は、怯える子供のように、縮こまっている。

 

 なんとか近くに浮いている木材に手を伸ばし、しがみつく。

 その途端、また流される。

 

 引き波。

 海が私を飲み込もうとしている。

 

 第二波の轟音で、意識が途切れる。

 

 ……

 

 誰かが私の身体をゆすっている。

 

「おいっ」

「しっかりしろ!!」

「おいっ……」

 

 その声は、遠く、かすんでいく。

 

「ねえ」

「起きて」

「ねえ……」

 

 浮かび上がるように、はっきりしてくる声。

 

 私は目を開ける。

 シアターの照明が、太陽みたいにまぶしい。

 

「何、寝てんの」

 

 妹が私を覗きこんでいる。

 

……違う。

 私は寝ていたんじゃない。

 見せられたんだ。

 

 とんでもない、ショートムービーを。

 

 

 

 


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